The Database for DNA-barcoding of the Japanese Lichens


このデータベースについて

 生物種の同定は,その種を規定する形態的・生態的特徴(地衣類の場合は化学的特徴も)を見出し,近縁種を含む多数の生物との比較により行われてきた.そのため,鍵となる特徴を見い出すための豊富な知識・経験・技術(さらには分析機器・設備)を有する専門家でなければ正確な同定は難しい.2003年にHebertらによって提唱されたDNAバーコーディングは,種に固有の短い塩基配列情報(=DNAバーコード)を用いて,未知生物の種同定を行う方法である.専門家によって同定された標本からDNAを抽出し,バーコード配列を増幅・決定し,データベースとしてあらかじめ整備しておくことで,ある生物のバーコード情報さえ入手できれば,専門家でない一般の研究者でもデータベースと照合することで正確・迅速・効率的な分子同定が可能となる.DNAバーコーディングでは,PCRによって特定の遺伝子領域を増幅するため,毛や羽,葉の一部からの同定も可能であり,特異的かつ高感度な方法といえる.さらに,近年の次世代シーケンサーの普及により,膨大な数のバーコード配列を解析できるようになり,形態的差異の少ない微生物叢や,環境中に存在するDNA(環境DNA)から存在する生物の網羅的な同定(メタバーコーディング)も可能となってきている.一方で,分析データベースが充実していなかったり,遺伝的差異が無い場合は同定できないこと,安価になってきたとはいえ,分子同定の試薬・機器が必要で費用がかかること,観察・採集場所では解析できないこと,などの問題もある.

 DNAバーコーディング技術を開発・普及するために,国際プロジェクトが設立されており,例えば,Barcode of Life Data Systems(BOLD)では,データベース構築から同定支援システムまでをインターネット上で提供している.国内においては,DNAバーコーディングの普及や関連プロジェクトの支援を目的として2007年に日本バーコードオブライフ・イニシアティブ(JBOLI)が設立され,動物(鳥類,魚類,貝類),植物(樹木,シダ植物),昆虫(鱗翅類,コメツキムシ,カミキリ類,ユスリカなど),菌類(キノコ類)の証拠標本の情報と由来するDNA配列とがデータベースとして公開されている.また,世界中の生物多様性情報を集積・整理・提供しているGBIF(地球規模生物多様性情報機構)の日本ノード(JBIF)では,BOLDなどのバーコード情報を用いた生物同定システムを提供している.

 菌類においては,2012年に核リボソームDNAの内部転写スペーサー領域(internal transcribed spacer; ITS)が標準のバーコード領域と推奨された(Schoch et al., 2012).地衣類においては,2011年に複数の報告(Kelly et al.; Zheng et al.)があり,翌年の国際地衣学会第7回シンポジウム(IAL7,2012.1,タイ・バンコク)においても,バーコーディング関連の複数の発表がなされている.その後,様々な分類群ごと(Leavitt et al., 2013; Del-Prado et al, 2019),あるいは地域ごと(Marthinsen et al, 2019)にバーコード情報の蓄積・分析が進められている.その結果,例えば,同じ1種と考えられていた担子地衣が少なくとも126種に分類されること(Lücking et al., 2014)や,別種と考えられた地衣の違いが実際は地衣体内の担子菌酵母の存在の有無によること(Spribille et al., 2016)などが判明し,地衣の同定・分類だけでなく共生関係の解明にもDNA情報が必須となりつつある.最近では,150年前の地衣標本からDNA情報を得ることも出来ており(Kistenich et al., 2019),さらに,DNAバーコーディングと地衣成分の分析とを融合させた同定(Xu et al., 2017)なども試みられており,さらなるバーコーディング技術の開発も進んでいる.しかし,日本では,DNAバーコーディングを活用した地衣研究はほとんどなされておらず,そのため,バーコード情報の蓄積も進んでいない.共生という独特な生活様式をとり,様々な環境に適応している地衣類をより簡便かつ正確に同定できることは,生態学的・保全学的研究,生物多様性の評価,および多様化を促進する要因の特定に不可欠であり,そのため,証拠標本・地衣成分・DNAバーコード配列を組み合わせたデータベースの構築が望まれる.


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引用文献


謝辞

本研究は、 公益財団法人発酵研究所 平成30年度(2018年度)一般研究助成「日本産海岸生地衣類の種多様性解明と同定ツールの開発」、 科研費 JP21K01006「日本産地衣類の総合的なデータベースの整備とウェブ公開」 を受けて実施したものです。